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【GROMACSチュートリアル②】 系の作成

任意のMDシミュレーションを開始するためには、まず大前提として系が用意されている必要がある。 ここでは直鎖アルコールの構造を作成し、それをボックス内に配置することで、アルコール分子の二重膜が含まれる系の作成をしてみたいと思う。

なお、今回は系の作成を簡単にするために、自動で構造を生成してくれる外部サイトを利用する。 インターネット環境が必要となるので、通信環境の良いところで取り組んでほしい。

  1. アルコール分子の作成(CHARMM-GUI)
  2. アルコール二重膜系の作成

今回作成する系は図のようになる。 アルコール分子が整列して二重膜を形成し、その両側にはバルクの水が存在するような系を作成する。

Alcohol Membrane System

アルコール分子の作成(CHARMM-GUI)

まず、シミュレーションする系に含まれる分子であるアルコール分子の構造を作成する。 簡単な分子構造を作成し、構造ファイルを書き出すにはCHARMM-GUIが便利である。 CHARMM-GUIはWeb上で動くプログラムであり、PDBファイルの作成からシミュレーションのインプットファイルの作成まで、多くの便利な機能が備わっている。

charmm-gui-top

今回はCHARMM-GUIのトップページから「Input Generator」を選択し、その中の「Ligand Reader and Modeler」を利用する。 一番下までスクロールすると、次のような画面が現れるはずである。

ligand_reader_modeler

この画面の枠内では分子を描画することができる。今回はアルコール分子として、C16H33OHの構造式を描いてみることにする。

枠の左側のツールを用いて直鎖アルカンを描画し、右側のツールで元素を変更する。 分子の骨格ができたら必ず枠上のHマークから分子に水素を付加しておくこと。 これを忘れると後にエラーとなってしまう。 最終的に下図のようになればOKである。

C16OH_modeling

一番下の「Next Step: Search ligand」を押すと、次の画面に進む。 作成した分子と一致する構造がCHARMM-GUI上にあった場合や、似たような構造があった場合はここで表示される。 一致するものがなくても、その分子にオリジナルの名前(VMDではresnameで分類される)をつけることができる。 今回は「LAL」(Linear-chain Alcohol Ligand)という名前をつけておくことにする。

C16OH_rename

「Next Step: Generate PDB」を押すと、プログラムの処理が始まる。 しばらくすると次のページへ移動し、PDBファイルやpsfファイル、インプットファイルなどが生成する。 これらは「download.tgz」から一括でダウンロードしておくとよい。

C16OH_download

ダウンロードしたファイルを展開し、PDBファイルをVMDで確認すると、アルコール分子が正しく作成できていることがわかる。

C16OH_pdb

アルコール二重膜系の作成

ここまでで、系の構築に必要なアルコール分子の構造を作成することができた。 二重膜系を作成するためにはPACKMOLなどを使用して分子を並べてもよいが、今回は便利な二重膜系作成ツールがあったのでそちらを利用する。

mengen_top

MemGenにアクセスし、先ほど作成したアルコールのPDBファイルをアップロードする。 オプションでは膜中の分子密度や水の量などを指定できるので、今回は次のように設定する。

オプション
Lipids per monolayer 128
Water molecules per lipid 30
Add salt (mMolar) 0
Area per lipid (Å2) 20

設定が完了したら「Submit」を押すと、プログラムが動いて二重膜の構造を自動生成してくれる。 二重膜系のPDBファイルを「Download Membrane PDB」からダウンロードしておこう。

mengen_pdb

ダウンロードしたPDBファイルの名前をsystem.pdbに変更し、テキストエディターで内容を確認する。 今回は(多少数値は前後するであろうが)アルコール分子が256個、水分子が7680個含まれる系で、ボックスサイズは(x, y, z)=(53.666, 53.666, 124.570)であることがわかる。

また、その次の行からは原子の種類と座標が記述されている。 詳しくは調べてほしいが、PDBファイルの形式は単なるスペース区切りではなく、何文字目がどの情報を表すかが厳密に決まっている。 GROMACSでPDB形式を扱うことはほぼないが、NAMD等を使用する際には必要となるので覚えておくとよい。

system.pdb

REMARK REMARK MEMBRANE PATCH GENERATED BY WEBSERVER MEMGEN: http://memgen.uni-goettingen.de REMARK REMARK PLEASE CITE: REMARK REMARK Christopher J. Knight and Jochen S. Hub REMARK MemGen: A general web server for the setup of lipid membrane simulation systems REMARK Bioinformatics, 31:2897-2899 (2015) REMARK REMARK THIS PDB FILE CONTAINS: LAL 256 REMARK Water 7680 REMARK Na+ 0 REMARK Cl- 0 REMARK CRYST1 53.666 53.666 124.570 90.00 90.00 90.00 P 1 1 MODEL 1 ATOM 1 C1 LAL 1 2.640 54.580 63.460 1.00 0.00 C ATOM 2 C2 LAL 1 2.610 53.670 64.700 1.00 0.00 C ATOM 3 C3 LAL 1 2.670 54.470 66.010 1.00 0.00 C ATOM 4 C4 LAL 1 2.760 53.530 67.220 1.00 0.00 C ATOM 5 C5 LAL 1 3.190 54.280 68.480 1.00 0.00 C ATOM 6 C6 LAL 1 3.150 53.230 69.610 1.00 0.00 C ATOM 7 C7 LAL 1 3.450 53.890 70.960 1.00 0.00 C ATOM 8 C8 LAL 1 3.120 53.000 72.170 1.00 0.00 C ATOM 9 C9 LAL 1 3.290 53.950 73.360 1.00 0.00 C

同時にVMDでも系の構造を確認しておく。

C16OH_system

まとめ

ここまで、次の手順でアルコール二重膜系の構造を作成した。

  1. CHARMM-GUIによりアルコール分子の構造を作成した。
  2. 作成したアルコール分子を用いてMemGenで二重膜系を作成した。

しかし、このアルコール分子はオリジナルの分子であるため、GROMACSにこの分子を認識させる必要がある。 次回はその点を含め、作成した系をGROMACSで扱う方法を見ていく。

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